お疲れ様です。今回は「専門家の予想はギャンブルに等しい!未来の経済や企業の変動を見抜くことは不可能」についてお伝えします。
専門家の予想はチンパンジーのダーツ投げと同じレベル
好きな業界や職種から仕事を選ぶのは、キャリア選択の世界ではよく見かける光景でしょう。「これからはフィンテックが伸びるだろう」や「キャッシュレス決済が来ているな…」のように有望そうな業種で選んだり、シンプルに「なんとなく興味があるから」や「楽しそうだから」といった個人的な興味で仕事を選ぶパターンです。
衰退しそうな業界よりは将来が安心な業界、興味がない職種よりは関心の持てる職種に就きたいと思うのは当然です。
しかし、この考え方に問題があります。その理由は以下の2つです。
- 専門家だろうが有望な業界など予測できない
- 人間は自分の個人的な興味の変化も予測できない
第一の問題は、専門家の予測が全く当てにならない点です。
確かに「業界の未来予測」には常に一定の需要があり、少し探せば「伸びる業界と沈む業界はこれだ」や「IRを参考に有望な会社を選ぶ方法」といった情報がいくらでも見つかるでしょう。
ところが、これら専門家の予想は基本的には当たりません。どれだけ知名度のあるエキスパートだろうが、予想の精度はコイン投げと変わらないのです。
その点で最も有名なのは、ペンシルバニア大学のデータでしょう。研究チームは、1984年から2003年にかけて学者、評論家、ジャーナリストなど248人の専門家を集め、3~5年後の経済や企業の状況、政治などがどうなっているかを予想させました。専門家の予想が正しいのかどうかを調べた研究としては、現時点で最も精度が高い内容です。
(PDFファイル)のレビュー:フィリップE.テトロック。2005. 専門家の政治的判断: それはどれくらい良いですか?どうすればわかるのでしょうか? (researchgate.net)
最終的に集まった28000超の予測データを全てまとめたところ、結果は「専門家の予想はほぼ50%の確率でしか当たらない」というものでした。
著者のフィリップ・テトロックは、この状況を「専門家の予想はチンパンジーのダーツ投げと同じ正確性しかない」と表現しています。それだけ私たちは、未来の予想が苦手なのです。
未来の経済や企業の動向を正しく予測できる人も方法も存在しない
クリントンやブッシュ政権で国防の任務についたリントン・ウェルズも、2009年に発表した文書のなかで専門家の未来予想を皮肉っています。
当時のアメリカ議会は定期的に今後20年の予測を立てており、未来の経済や政治の状況をつかむために多大な税金を投入していました。この事態に憤ったウェルズは、1900年から現代に至るまでの歴史の流れをまとめ、いかに未来予測が当てにならないかを指摘したのです。
- 1980年ごろアメリカは歴史上で最大の債権国であり、誰もがその状態が続くと考えていた
- 1990年代、今度はアメリカは史上最大の債権国に変化。ほとんどの人はインターネットの存在を知らず、物質経済の成長がそのまま続くと思われた
- 10年後、情報やバイオテクノロジーなどの分野で革命が起き、産業は更に予測不可能になった
どんな専門家でも3年後の未来すらまともに見抜けないのだから、10年単位のスパンで経済や企業の変動を見抜くことができる人などこの世に存在しません。いまとなっては信じがたいものの、1980~1990年代にかけては、多くのエキスパートが「日本はすぐ世界経済のトップになる」と予測していたのは有名な話です。
「10年後の仕事はこうなる」や「未来の働き方はこう変わる」といった主張を信じるのは自由ですが、未来の経済や企業の動向を正しく予測できるような人も手法も存在しないのは間違いありません。
私たちは自分の変化すら正しく予想できない
あなたがいま興味のある業種や職種に就こうとするのも、問題の大きい考え方です。専門家の未来予想が当てにならないように、あなたが自分自身の将来にくだす予測もまた当てにならないからです。
一例として、ハーバード大学などが行った大規模なリサーチを見てみましょう。
研究チームは18~68歳までの男女19000人以上を集め、まずは各自の好きな人のタイプや好きな趣味、お気に入りの職業といった幅広いポイントを調べ上げました。その上で、被験者に2つの質問をしています。
- 今後10年であなたの価値観や好みはどこまで変わると思いますか?
- 過去10年であなたの価値観や好みはどこまで変わりましたか?
これらのデータセットを照らし合わせたところ、人間の好みの変化には一貫した傾向が認められました。18~68歳までのどの年齢を取ってみても、ほぼ全ての被験者が、10年の間で自分の身に起きる変化を過小評価していたのです。
例えば、あなたが18歳の頃に「将来は喫茶店をやりたい」と考えていたとしても、28歳まで同じ希望を保ち続けているかどうかの予測は不可能です。更に、28歳になったら今度はマーケティングに興味が出たとしても、その10年後には、過去に存在すらしなかった新しい業種に心を奪われているかもしれません。
被験者のなかには子供の頃の夢を追い続けている人もいましたが、そのようなケースはあくまで少数派でした。若いころに彫った刺青を成人後に消したくなる人や、かつて結婚を切望したはずのパートナーと離婚する人が後を絶たないように、私たちは自分自身の変化すら正確に予想できないのです。
実際の世界は、専門家も予想できないペースでめまぐるしく移り変わり、その状況に応じて好みと価値観も変わり続ける
心理学者たちは、このような現象を「歴史の終わり幻想」と呼んでいます。大半の人は「現在の価値観や好みが最も優れている」と思い込み、過去に起きたような変化が未来にも起きる可能性を認めません。
しかし、実際の世界は、専門家も予想できないペースでめまぐるしく移り変わり、その状況に応じてあなたの好みと価値観も変わり続けます。いま特定の業種・職種を選んだとしても、数年後に後悔している可能性は十分にあるでしょう。
先に見たリントン・ウェルズは、アメリカ議会に宛てた文書を次のように締めくくっています。
「未来の状況は分からないが、少なくとも我々が想定しているものとはまるで違うことだけははっきりしている。そうした認識に沿って計画を立てるべきだ」
今回の内容は以上になります。ご閲覧ありがとうございました。