お疲れ様です。今回は「退屈を突き詰めて時間の余裕を取り戻そう!時計に人生を左右されず、心から余裕を得るためのトレーニング」についてお伝えします。
時計に人生をコントロールされない前近代の感覚を再現しよう
現代人は「時間とは自分の外側に存在する客観的なものである」と考えることに慣れすぎ、前近代の時間を体感するのはかなりの難事です。
ただし、近年の研究によれば、私たちの時間感覚には、ある程度の柔軟性があることがわかってきました。
「循環する時間」を体得するのは困難ですが、時計に人生をコントロールされない前近代の感覚を再現し、私たちが心から余裕を得ることは十分に可能なのです。
それでは、前近代の時間感覚を味わうにはどうすればいいのか?有効なトレーニングを紹介します。
退屈を突き詰めると、時間の流れが緩やかになる
時間の余裕を取り戻すのにもっとも効果的なのが、「退屈を突き詰める」という戦略です。あなたが「つまらなそうだ」や「おもしろくない」と感じる行為を意図的に徹底して行うのが、このトレーニングの基本になります。
退屈に時間をかけるなど無駄の極みとしか思えないでしょうが、実は近年、多くの一流機関が似たような戦略を取り入れています。
代表的なのはハーバード大学のラドクリフ高等研究所で、美術史家であるジェニファー・ロバーツの授業では、全ての新入生に「特定の絵画を3時間かけて見つめてください」との指示が出ます。
Jennifer L. Roberts, Transporting Visions. The Movement of Images in Early America (openedition.org)
普段なら数分で見終わる作品を粘り強く観察し、その過程で発見したことや、そこから生じた疑問を書き留めさせるのです。
当然ながら、最初のうちは学生たちの反応は散々だったようで、最初の1時間で皆が耐えがたい苦痛を訴えはじめ、その場から逃げ出す者も現れました。手軽な娯楽に慣れた現代人にとって、1枚の絵画を3時間も見続けるのは確かに拷問に等しいでしょう。
しかし、それでもさらに同じ行為を続けさせたところ、学生たちにおもしろい変化が起きました。
3時間にわたって同じ絵を見つめたことで、いつもなら気にもとめないだろう画家の繊細なタッチや構図の妙に気づき始め、普通に絵画を見ただけでは味わえない理解に到達できたのです。
もうひとつ興味深いのは、この授業に参加した学生の多くが「時間の流れが緩やかになった」と証言した点です。ある学生は「当初は無駄だと思ったが、終わってみると濃密な時間を過ごしたと思う」と答え、またある学生は「1時間を過ぎたころからゆったりとした時間が苦痛ではなくなり、目の前の絵画がいよいよ興味深く思えてきた」と報告したそうです。
人間は「印象的な想起の回数」をもとに過去を見積もる
この現象は「印象的な想起が増えた状態」だと言えます。そもそも、私たちが感じる時間の流れには「タスク中」と「タスク後」の2種類が存在し、それぞれ異なる性質を持っています。
- タスク中:楽しい体験の最中は時間が短くなり、つまらない体験の最中は長くなる
- タスク後:楽しい体験の後は時間が長くなり、つまらない体験のあとは短くなる
前者は、つまらないタスクに取り組む間は誰でも時計に向ける注意の回数が増え、そのせいで時の流れは遅くなります。しかし、そのタスクのあとで同じ作業を振り返ると感覚の逆転が起こり、あたかも時間があっという間に過ぎたかのような感覚が生まれるのです。
このような現象が起きるのは、私たちの脳が、「印象的な想起の回数」をもとに過ぎ去った時間の量を見積もるからです。
例えば、あなたが前から行きたかった高級リゾートに出かけたとしましょう。これは楽しいタスクなので、たいてい人は次の体験をします。
- 旅行中は時の流れが速くなったように感じる
- 帰宅後は非常に長く旅行したように感じる
高級リゾートには楽しいアクティビティが豊富なため、滞在のあいだは普段よりも時計に注意を向ける回数が格段に減ります。その結果、あなたは旅行中の時間が短くなった感覚を味わうわけです。
続いて、あなたが家に帰って旅行を振り返ってみると、今度はスキューバダイビングや豪華な食事といった印象深い体験を次々に思い出すでしょう。その想起の総量は、いつもの平凡な日常で思い出す記憶の数よりも格段に多く、それゆえにあなたの脳は「長くて充実した時間を過ごしたようだ」と解釈します。
逆もまたしかりで、毎日いつも同じようなタスクをこなしている場合は、いつまでも印象的な想起が脳内に溜まっていきません。その結果、脳は「たいした時間は使っていないだろう」と判断し、時間が速く過ぎたかのような感覚をあなたに与えます。是非、参考にしてください。
今回の内容は以上になります。ご閲覧ありがとうございました。